多焦点眼内レンズの種類と特徴|選び方のポイントから費用まで解説
2025年10月31日

白内障の手術を検討する際、レンズの種類が多くて選びにくいとお悩みではないでしょうか。
多焦点眼内レンズは、遠くから近くまで複数の距離にピントをあわせられるレンズです。
しかし、構造や焦点の数、費用など多くの違いがあり、選択肢の多さに戸惑うことも少なくありません。
この記事では、多焦点眼内レンズの基本から種類別の特徴、費用の仕組み、選び方のポイントまで分かりやすく解説します。
白内障手術を控えている方や、ご家族のために情報を集めている方、メガネに頼らない生活を希望される方は、ぜひ参考になさってください。
多焦点眼内レンズとは

多焦点眼内レンズとは、複数の距離にピントをあわせられる眼内レンズです。
白内障は年齢と共に発症リスクが高まる目の病気で、水晶体が濁り、視界がぼやけてしまいます。
治療には白内障手術が必要となり、濁った水晶体を取り除いて人工の眼内レンズを挿入します。
単焦点レンズとの違い
従来の単焦点眼内レンズでは、一つの距離(遠方・中間・近方のいずれか)にしかピントがあいません。
遠くに焦点をあわせると近くが見えにくく、逆に近くに焦点をあわせると遠くが見えにくくなります。
そのため、レンズにあわせていない距離を見る際には、メガネやコンタクトレンズが必要です。
これに対して、多焦点眼内レンズは2ヶ所以上の距離にピントをあわせられます。
構造によって異なりますが、一般的に遠方・中間・近方のうち複数の距離でクリアな視界を提供します。
白内障手術後のメガネ使用を減らし、QOL(生活の質)を向上させるために開発されました。
メガネなしで見える範囲が広がる仕組み
多焦点眼内レンズは、独自の光学設計で光を複数の焦点に分配します。
レンズが視力を確保する仕組みは、主に次のようなものです。
| 構造 | 光の分配方法 | 特徴 |
|---|---|---|
| 回折型 | レンズ表面の微細な段差(同心円状)により光を分散 | 瞳孔サイズの影響が少なく、近方視力が安定 |
| 焦点深度拡張型 | 連続的な焦点範囲を作る特殊設計 | 自然な見え方だが、近方視力はやや弱い |
| 屈折型 | 屈折力の異なる領域を同心円状に配置 | 遠方視力に優れるが、瞳孔サイズの影響を受けやすい |
多焦点眼内レンズを使用するメリットには、以下のようなものがあります。
- 日常生活の殆どをメガネなしで過ごせる
- 遠方から近方まで見やすい
- 老眼矯正と白内障治療を同時に実現
ただし、単焦点レンズよりもコントラスト感度(明暗の識別能力)がやや低下したり、ハロー・グレア現象(光のにじみ)が生じたりする可能性があります。
しかし、これらの短所を補って余りある日常生活の快適さが得られるため、白内障治療と同時に老眼も改善できる選択肢として注目されています。
多焦点眼内レンズの種類を知る必要性

レンズの選択は術後の生活の質に直結します。
そのため、白内障手術を検討する際には、多焦点眼内レンズの種類を知ることが重要です。
術後の生活の質に直結する選択
多焦点眼内レンズは、種類によって見え方の特性が大きく異なります。
ご自身の生活スタイルにあわないレンズを選ぶと、期待した視力改善が得られず、日常生活に支障をきたすかもしれません。
術後、メガネが不要になる可能性が高い一方で、見え方には個人差があり、満足度はレンズの種類と生活スタイルの適合性によって左右されます。
また、価格だけで判断すると後悔する場合もあるため、適切な情報収集が欠かせません。
個人にあった選択が重要
多焦点眼内レンズは優れた機能をもちますが万能ではなく、どのレンズにも長所と短所があります。
また、眼の状態によっては多焦点レンズが不向きなケースもあります。
例えば、網膜疾患や角膜疾患がある方、極端な近視や乱視がある方は、事前に医師との相談が必要です。
多焦点眼内レンズの種類を知り、ご自身のライフスタイルにあったレンズを選ぶことで、術後の満足度を高められるでしょう。
そのためにも、種類ごとの特徴を理解し、医師と十分に相談しながら選択するようおすすめします。
主な多焦点眼内レンズの特徴と違い

多焦点眼内レンズは技術の進歩と共に進化を続けています。
現在ではさまざまな種類が存在し、それぞれに特徴があります。
多焦点眼内レンズの進化
白内障手術で使用される多焦点眼内レンズは、当初は2つの焦点(遠方と近方)をもつ『2焦点タイプ』が主流でした。
その後、中間距離にも対応した『3焦点タイプ』が登場し、さらに5つの距離に対応した『5焦点タイプ』も開発されています。
単焦点レンズよりもハロー・グレアやコントラスト感度の低下が見られる傾向がありますが、光学技術の向上により改善が進んでいます。
構造による分類
現在主流のレンズの構造は、大きく分けて『回折型』と『焦点深度拡張型』の2つです。
回折型
回折型レンズは、レンズの表面に同心円状の微細な段差(回折輪)を設けています。
この構造により光が分散され、複数の焦点を作り出します。
【回折型の特徴】
- 瞳孔サイズに影響されにくい
- 近方視力が安定している
- 明所・暗所での見え方の差が少ない
ただし、光のエネルギーを分散させるため、コントラスト感度低下やハロー・グレアが生じやすい傾向があります。
焦点深度拡張型(EDOF)
焦点深度拡張型(EDOF:Extended Depth of Focus)は、遠方から中間距離まで連続的に焦点があうように設計されています。
【焦点深度拡張型の特徴】
- より自然な見え方を実現
- ハロー・グレアが少ない
- コントラスト感度が高い
- 単焦点レンズに近い自然な見え方
ただし、近方視力はやや弱く、細かい文字を読む際には老眼鏡が必要になることがあります。
代表的な多焦点眼内レンズ
多くの種類がある多焦点眼内レンズのなかから、代表的なものを紹介します。
| Tecnis Odyssey (テクニス オデッセイ) |
焦点深度拡張型で、遠方から35cmまでの視力をカバーします。
ハロー・グレアを抑えた設計で、乱視矯正レンズ『Odyssey ToricⅡ(オデッセイ トーリックⅡ)』も用意されています。 |
|---|---|
| Clareon PanOptix (クラレオン パンオプティクス) |
3焦点回折型で、遠方・60cm・40cmの距離に焦点をあわせます。
世界でも多く普及している3焦点レンズの一つです。 |
| Clareon Vivity (クラレオン ビビティ) |
波面制御型の焦点深度拡張レンズです。
単焦点レンズと同程度のハロー・グレアの少なさが特徴です。 |
| INTENSITY (インテンシティ) |
5焦点回折型で、遠方・遠中・中間・近中・近方の5つの距離に対応します。
光学ロスが少なく、ハロー・グレアも抑えられています。 |
| LENTIS Mplus (レンティス エムプラス) |
分節型屈折レンズで、ハロー・グレアが少なく、遠方視力に優れています。
完全オーダーメイドで高い矯正精度が期待できます。 |
各レンズには特徴があり、患者さんのライフスタイルや眼の状態によって最適なレンズは異なります。
また、実際の見え方は個人差も大きいため、選択には眼科医とよく相談することが大切です。
深作眼科では、総合的な性能から『テクニス オデッセイ』と、乱視矯正タイプ『オデッセイ トーリックⅡ』を主な移植レンズとして採用しています。
費用と保険適用の仕組み

多焦点眼内レンズを選ぶ際、費用面は重要な検討要素です。
一般的な単焦点眼内レンズと比べて高額になりますが、その仕組みを理解しておくと安心です。
多焦点眼内レンズ選びの3つのポイント

多焦点眼内レンズは種類も豊富で、どれを選べばよいか迷うことも多いでしょう。
ここでは、レンズ選びで押さえておきたい3つのポイントを紹介します。
生活スタイルにあわせた選択
多焦点眼内レンズを選ぶ際、重要なのはご自身の生活スタイルとの相性です。
日常生活でどの距離の見え方を重視するかによって、最適なレンズが変わってくるためです。
例えば、読書や手芸が趣味の方には、近方視力に強いレンズ、例えば3焦点型や近方重視の2焦点型が適しています。
また、デスククワークやパソコン作業が多い方には中間距離の見え方が重要で、焦点深度拡張型(EDOF)や中間距離に強い3焦点型が向いています。
ドライブやゴルフが好きな方は遠方視力が重要となるため、遠方視力に優れた焦点深度拡張型や、遠方重視の多焦点レンズが適しているでしょう。
自分の一日の行動パターンを思い浮かべ、どの距離での活動が多いかを考慮すると、適切なレンズ選びの助けになります。
ただし、レンズ選びは医師が行うため、自分の生活スタイルをしっかりと医師に伝えることが重要です。
乱視の有無による選択の違い
乱視がある場合、通常の多焦点眼内レンズでは満足のいく視力改善が得られないことがあります。
乱視の程度に応じて選択肢が変わります。
- 乱視がない、または軽度(0.5D未満):通常の多焦点眼内レンズで対応可能
- 中等度から強度の乱視(0.5D以上):乱視矯正機能つきのトーリックレンズが必要
多焦点眼内レンズのなかには乱視矯正機能がないものもあります。
例えば、『クラレオン ビビティ』や『テクニス マルチフォーカル』は乱視矯正機能をもたないため、乱視がある方は他の選択肢を検討する必要があります。
手術を受ける医療機関の選び方
多焦点眼内レンズの性能を発揮するためには、医師の技術力も重要です。
事前に以下の点をチェックしましょう。
- 多焦点眼内レンズ手術の経験と実績
- 術前説明やカウンセリングの質が高い
- 術後のフォローアップ体制が整っている
また、医療機関によって取り扱いレンズの種類や料金体系も異なるため、複数の医療機関を比較検討するようおすすめします。
多焦点眼内レンズは一度手術すると簡単に取り替えられるものではありません。
これら3つのポイントをしっかり確認し納得のいく選択をすることが、術後の満足度を高める鍵となります。
まとめ
多焦点眼内レンズには、回折型や焦点深度拡張型などさまざまな種類があり、それぞれに特徴があります。
選択にあたっては、ご自身の生活スタイル、乱視の有無、費用面などを総合的に検討することが大切です。
『深作眼科』では、高水準の白内障手術技術と、焦点深度拡張型多焦点眼内レンズ『テクニス オデッセイ』を組み合わせた治療を提供しています。
白内障と老眼を同時に解決し、メガネに頼らない快適な生活を実現するためにも、多焦点眼内レンズについて医師とよく相談しあなたにあった選択をしましょう。